KEMA Column
韓国コスメの売り場やSNSで、ここ数年ですっかりおなじみになった「PDRN」という言葉。「サーモン由来」「美容医療発」といったキャッチコピーと一緒に見かけることも多く、気になっている方もいらっしゃると思います。
一方で、「サーモン注射と同じもの?」「塗るだけで肌が生まれ変わるの?」「髪や頭皮にも使えるの?」と、わからないことも多い成分です。この記事では、PDRNとは何か、どんなしくみが研究されているのか、そして美容医療と化粧品では何が違うのかを、はじめての方にもわかるように、できるだけ正確にお話しします。
この記事でわかること
- PDRNとは何か、どこから来た成分なのか
- 研究で報告されている、PDRNの2つのしくみ
- 美容医療(注入)と化粧品(塗布)の、大きな違い
- PDRNとPNの違い、化粧品の成分表示での見分け方
- 頭皮・髪とPDRNについて、いまわかっていること
目次
PDRNとは? ひとことで言うと「サケから取り出したDNAの断片」
PDRNは「Polydeoxyribonucleotide(ポリデオキシリボヌクレオチド)」の略です。長い名前ですが、分解するとイメージしやすくなります。
- ヌクレオチド:DNAをつくっている、いちばん小さな部品
- デオキシリボ:その部品が「DNA」のものであること
- ポリ:「たくさん」という意味。部品がたくさんつながった状態
つまりPDRNは、DNAの部品がいくつもつながった「DNAの断片」のこと。医療・研究の分野で使われるPDRNは、主にサケ科の魚(ニジマスやシロザケ)の精子、いわゆる「白子」から抽出・精製されたものです。「サーモンDNA」と呼ばれるのは、このためです。
DNAと聞くと「遺伝子を変えるの?」と心配になるかもしれませんが、そうではありません。PDRNは、遺伝情報を持つ「設計図」としてではなく、細かく分けられた「材料」として扱われる成分です。私たちが毎日の食事でとっている魚や肉にも、DNAはふつうに含まれています。

なぜ、いまこんなに話題なのか
PDRNは、じつは新しい成分ではありません。もともとはイタリアなどで、傷の治りをサポートする目的の医療分野で研究されてきた成分です。研究者による総説(レビュー論文)では、糖尿病による足の潰瘍、やけど、血流の悪い部位の傷など、さまざまな場面での研究が紹介されています。
その後、韓国の美容医療で、PDRNやPN(後ほど説明します)を肌に注入する施術が広まりました。日本では「サーモン注射」や、代表的な製品名から「リジュラン」と呼ばれることもあります。施術の人気が高まるにつれ、同じ由来の成分を配合したスキンケア化粧品が次々と登場し、「美容医療発の成分」として、一気に知られるようになりました。
研究で報告されている、PDRNの2つのしくみ
医療分野の研究では、PDRNの働きとして、主に次の2つのしくみが報告されています。どちらも、注射などで体の内側に届けた場合の研究が中心であることを、先にお伝えしておきます。
しくみ1:細胞に「修復を始めよう」と合図を送る
細胞の表面には、特定の物質だけを受けとめる「受容体(レセプター)」という、いわば鍵穴のようなものがあります。PDRNは、そのうちの「アデノシンA2A受容体」という鍵穴に働きかけることがわかっています。
この鍵穴に合図が届くと、細胞の中で、傷ついた組織の修復に関わるスイッチが入ると考えられています。研究では、新しい血管がつくられやすくなったり、炎症がしずまりやすくなったりする変化が報告されています。
しくみ2:細胞がDNAをつくるための「材料」になる
細胞が増えるときには、新しいDNAをつくる必要があります。体には、DNAの部品をいちから合成する方法のほかに、すでにある部品を回収して再利用する「サルベージ経路」という、リサイクルのようなしくみがあります。
PDRNが分解されてできる小さな部品は、このリサイクルの材料として使われると考えられています。材料がそろっていれば、細胞は効率よく新しいDNAをつくることができる、というわけです。
ここがポイント
- PDRNの研究は、主に「傷の修復」という医療の分野で進んできた
- しくみが報告されているのは、主に注射などで体の内側に届けた場合
- これらの研究結果が、そのまま「塗る化粧品」に当てはまるわけではない
いちばん大切なこと ─ 注射と化粧品は別もの
PDRNについて調べていると、美容医療の話と化粧品の話が混ざって語られていることが少なくありません。でも、この2つは、届ける場所も、目的も、ルールもまったく違います。
| 美容医療(注入) | 化粧品(塗布) | |
|---|---|---|
| 届く場所 | 注射で、肌の奥(真皮)に直接入れる | 肌の表面(角層)にとどまる |
| 行う人 | 医師 | 自分で、毎日のお手入れとして |
| 目的 | 医師の判断のもとで行う治療・施術 | 肌にうるおいを与え、すこやかに保つこと |
| ルール | 医療のルールのもとで行われる | 化粧品のルール(薬機法)のもとで、表現できる効果が決められている |
もうひとつ知っておきたいのが、PDRNの「大きさ」です。研究で使われるPDRNの分子量は、およそ50〜1,500キロダルトン。肌のバリアをすり抜けにくいとされる大きさの目安(約500ダルトン)と比べると、何百倍、何千倍も大きな分子です。そのため、ふつうに肌に塗っただけでは、注射のように肌の奥まで届くことは考えにくいのです。
では、化粧品に入っているPDRNには意味がないのかというと、そうではありません。化粧品でのPDRNは、主に肌の表面で水分を抱え込み、うるおいを与える「保湿成分」として配合されています。ハリやツヤ感、キメを整える実感は、このうるおいによるものと考えるのが自然です。

PDRNとPNは、何が違う?
韓国コスメや美容医療の情報では、「PDRN」と並んで「PN(ポリヌクレオチド)」という言葉もよく登場します。どちらもサケ由来のDNAの断片で、原料としては親戚のような関係です。
一般には、DNAの鎖を短めに切りそろえたものがPDRN、より長い鎖のまま残したものがPNと説明されることが多く、PNのほうがとろみのあるジェル状になりやすいという特徴があります。美容医療では、この性質の違いから使い分けられることがあります。
ただし、メーカーによって呼び方や加工の方法はさまざまで、はっきりとした線引きがあるわけではありません。化粧品として選ぶ場合は、「PDRNかPNか」よりも、次の章でご紹介する成分表示や、製品全体の処方を見るほうが確実です。
化粧品の成分表示では「DNA-Na」
日本の化粧品の成分表示では、PDRNという名前はほとんど使われません。サケの白子などから得られるDNAのナトリウム塩は、「DNA-Na」という表示名で記載されるのが一般的です。パッケージの「PDRN配合」という言葉だけでなく、裏面の全成分表示もあわせて見てみてください。
頭皮・髪とPDRN ─ いまわかっていること
KEMAはヘアケアブランドなので、ここからは頭皮と髪についてお話しします。「顔にいいなら、頭皮や髪にもいいのでは?」と考える方もいらっしゃると思います。
頭皮について:研究は「注射」で始まったばかり
海外では、PDRNやPNを頭皮に注射する方法で、薄毛(男性型・女性型の脱毛症)への影響を調べた研究が報告されはじめています。たとえば、28人の男性型脱毛症の方にPNを4週間おきに4回注射した研究では、髪の太さや密度に改善が見られ、重い副作用はなかったと報告されています。
ただし、これは少人数の研究で、比較のためのグループ(注射をしなかった人たち)も設けられていません。また、あくまで医師が行う注射の研究であり、頭皮に塗るシャンプーやトニックで同じことが起こるという意味ではありません。抜け毛や薄毛が気になる場合は、自己判断せず、皮膚科などの専門医に相談するのがいちばんです。
髪について:髪そのものは「再生」しない
もうひとつ知っておきたいのが、髪の特徴です。頭皮から外に出ている髪は、すでに生きた細胞ではありません。そのため、髪そのものが自分で修復したり、生まれ変わったりすることはないのです。PDRNの「細胞に合図を送る」「DNAの材料になる」というしくみは、生きた細胞があってこそのもので、髪の毛そのものには当てはまりません。
ヘアケア製品にDNA-Naが配合されている場合、その役割は主に「保湿」です。髪の表面に水分を抱え込み、パサつきを抑えて、しっとりとした手ざわりに整えるための成分のひとつと考えてください。
頭皮・髪とPDRNのまとめ
- 頭皮への注射で薄毛への影響を調べた研究はあるが、まだ規模が小さく、これから
- 塗るヘアケア製品で、同じような効果が得られるとは言えない
- 髪そのものは生きた細胞ではないため、「再生」はしない
- ヘアケア製品のDNA-Naは、主に保湿成分として配合されている
PDRN配合アイテムを選ぶときの5つのポイント
ここまでの内容をふまえて、PDRN配合のスキンケアやヘアケアを選ぶときのポイントをまとめました。
1全成分表示で「DNA-Na」を確認する
「PDRN配合」とうたっていても、表示名はDNA-Naであることが一般的です。成分表示は、配合量の多い順に並んでいるのが基本(配合量が1%以下の成分は順不同)なので、どのあたりに書かれているかもひとつの目安になります。
2「再生」「注射級」などの言葉をうのみにしない
化粧品は、薬機法のルールのもとで表現できる効果が決められています。「肌が再生する」「注射と同じ効果」といった言葉には、慎重になりましょう。
3PDRNだけでなく、処方全体を見る
使い心地や実感を左右するのは、ひとつの成分ではなく、ほかの保湿成分や油分とのバランスです。「話題の成分が入っているか」より、「自分の肌や頭皮に合う処方か」を大切にしてください。
4魚由来の原料が気になる方は、事前に確認を
PDRNはサケの白子などを原料としています。魚介類に対するアレルギーがある方や、動物由来の原料が気になる方は、成分表示やメーカーの情報を確認し、心配な場合は使用前に医師に相談してください。
5美容医療を受けるなら、医師にしっかり相談する
注入による施術は、医師が行う医療行為です。使う製剤の種類や国内での取り扱い、リスクやダウンタイムなどは、クリニックで十分に説明を受けたうえで判断しましょう。
頭皮は「顔の肌の延長」として整える
PDRNがこれほど注目されている背景には、「肌をすこやかに保ちたい」という、多くの人の思いがあります。そして、その思いは、顔だけでなく頭皮にも向けてあげたいものです。
頭皮は、顔とひと続きの「肌」です。しかも、髪に覆われて紫外線や乾燥の影響に気づきにくく、皮脂の分泌も多い場所。話題の成分を探す前に、まずは「汚れや余分な皮脂を落としすぎずに洗う」「洗ったあとにうるおいを与える」「濡れたままにせず、すぐに乾かす」という基本を整えることが、すこやかな頭皮環境への近道です。

KEMAでは、頭皮を肌として整えるためのスカルプケアをご用意しています。どちらもPDRNを売りにしたアイテムではありませんが、頭皮のうるおいと、すこやかな状態を保つための毎日のケアとしておすすめです。

KEMA スカルプシャンプー
過剰な皮脂・汚れをすっきり洗浄しながら、必要なうるおいはキープ。ベタつき、ニオイ、フケ、かゆみなどの頭皮悩みに寄り添うスカルプケアシャンプー。
¥9,020 (税込)

KEMA スカルプトニック
シャンプー後の頭皮へ直接塗布し、乾燥・ベタつきなどで乱れやすい頭皮環境を健やかに保つスカルプトニック。頭皮ケア初心者にもおすすめ。
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よくある質問
「サーモン注射」と、PDRN配合の化粧品は同じものですか?
原料の由来は近いものの、まったく別ものと考えてください。注射は医師が肌の奥に直接届ける医療行為で、化粧品は肌の表面にうるおいを与えるためのものです。化粧品に、注射と同じ効果を期待することはできません。
PDRN配合の化粧品を塗ると、肌は再生しますか?
化粧品で「再生」をうたうことはできず、PDRNは分子が大きいため、塗っただけで肌の奥まで届くことも考えにくいとされています。化粧品のPDRN(DNA-Na)は、うるおいを与える保湿成分として取り入れるのがよいでしょう。
PDRNは、抜け毛や薄毛に効きますか?
頭皮への注射で薄毛への影響を調べた研究はありますが、まだ小規模で、塗るヘアケア製品で同じことが起こるとは言えません。抜け毛や薄毛が気になるときは、皮膚科などの専門医に相談することをおすすめします。
魚アレルギーがあっても使えますか?
PDRNはサケの白子などを原料としているため、魚介類にアレルギーのある方は、使用前に医師に相談してください。使用中に赤み・かゆみなどの異常を感じた場合は、すぐに使用を中止しましょう。
PDRNとPN、化粧品ならどちらを選べばいいですか?
化粧品では呼び方や加工方法がメーカーによってさまざまで、名前だけで優劣を決めることはできません。成分表示と処方全体、そして実際の使い心地で選ぶのがおすすめです。
まとめ ─ 話題の成分こそ、「しくみ」と「届く場所」を知って選ぶ
PDRNは、サケの白子から取り出したDNAの断片で、医療の分野では、細胞に修復の合図を送るしくみや、DNAの材料になるしくみが研究されてきた成分です。ただし、その多くは注射で体の内側に届けた場合の研究で、化粧品として肌や頭皮に塗る場合は、主に「うるおいを与える保湿成分」としての役割になります。
KEMAが大切にしているのは、「構造から美を設計する」という考え方です。話題のキーワードに飛びつくのではなく、その成分がどこに届き、どう働くのかという「しくみ」を知ったうえで選ぶこと。それが、自分の肌や髪にとって本当に意味のあるケアにつながると考えています。
参考文献
- Squadrito F, et al. Pharmacological Activity and Clinical Use of PDRN. Frontiers in Pharmacology. 2017;8:224. https://www.frontiersin.org/journals/pharmacology/articles/10.3389/fphar.2017.00224/full
- Polydeoxyribonucleotide: A Promising Biological Platform to Accelerate Impaired Skin Wound Healing. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8618295/
- Polynucleotides as a novel therapeutic approach in androgenetic alopecia: an analysis of effectiveness and safety. Archives of Dermatological Research. 2025. https://link.springer.com/article/10.1007/s00403-025-03908-6
- DNA-Na|ヘアケア図鑑 https://db.a-w-a.co.jp/ingredients/dna-na/
※本記事は成分に関する一般的な情報提供を目的としたもので、特定の製品の効果・効能を示すものではありません。美容医療の施術や、頭皮・肌のトラブルについては医師にご相談ください。