「令和の米騒動」の隣で韓国のお米はいま、こう動いている。

韓国の真鍮の器に盛られた炊きたての白いごはん
韓国の真鍮の器に盛られた炊きたての白いごはん
Korea & Japan · Food Culture · 2025

「令和の米騒動」の隣で
韓国のお米はいま、こう動いている

韓国人は、もうかつてほど白いごはんを食べない。一人当たりの米消費量はピークの半分以下まで落ちた。ところが――米価は過去最高、コンビニのおにぎりは飛ぶように売れ、ブランド米やクラフトマッコリ、米粉グルメが新しい食のシーンを牽引している。「米離れ」と「米ブーム」が同時に進行する韓国のいまを、同じ道を歩む隣国・日本(2024〜2025年の「令和の米騒動」)と並べて、食通目線で読み解く。

2026年6月29日 | 食文化・トレンド | 読了 約11分

01 / DATA数字で見る「米離れ」――日韓ともにピークの半分以下へ

まずは現実から。韓国の一人当たり年間米消費量は、1985年の128.1kgをピークに下がり続け、2023年には56.4kgまで落ち込んだ。およそ40年で半分以下。1人当たりが初めて60kgを割ったのは2019年(59.2kg)で、そこからも57.7kg(2020年)、56.9kg(2021年)と毎年のように記録を更新し続けている。ラーメン、パン、雑穀米といった選択肢が食卓に広がり、「とりあえず白米を大盛りで」という時代は静かに終わりつつある。

128.1kg韓国・1985年
ピーク時の年間消費量
56.4kg韓国・2023年
一人当たり消費量
▲56%ピーク比
約40年での減少幅

そして、この流れは日本とそっくりだ。日本の一人当たり消費量は1962年度の118.3kgをピークに減り続け、2023年度には過去最低の51.1kgまで落ちた(2024年度は米不足を背景にやや戻して53.4kg)。韓国はピークが日本より約20年遅いぶん、いまはちょうど日本を追いかけるように減少カーブを描いている。食卓の「主役」から「名脇役」へ――両国そろって、米の立ち位置が大きく変わったのだ。

02 / PARADOX消費は減るのに米価は最高値。「米のパラドックス」

消費が減れば値段は下がる――そう思いきや、現実は逆だった。2025年産の韓国産地米価は過去最高を更新。収穫期の産地平均米価は約23万9,140ウォンに達し、政府備蓄米の買い取り価格(もみ米40kg当たり)も初めて8万ウォンを超えた。

秋の韓国・利川(イチョン)の黄金色に実った田んぼ
黄金色に実る秋の田んぼ。米どころ・利川(イチョン)に代表される産地の風景。

カラクリは需給と政策にある。2025年産の生産量は357万4,000トンで、推計需要量340万9,000トンを16万5,000トン上回る過剰生産。そこで政府は10万トンを「市場隔離(buy-up)」し、市場に出回る量を絞って価格を支えた。前年も過剰分を上回る26万6,000トンを隔離しており、その効果で米価は下げ止まり、むしろ上昇基調が続いた。

食べる量は減っているのに、つくる量はそれ以上に減らない。だから政府が買い支える――韓国の米は「市場」ではなく「政策」が価格を決める作物になっている。

03 / JAPAN隣国でも同じことが――日本の「令和の米騒動」

「消費は減るのに価格は上がる」――同じパラドックスは、実は海を渡った日本でも、より劇的なかたちで起きていた。2024年から2025年にかけて日本を襲った米価高騰は、「令和の米騒動」と呼ばれる。コシヒカリなど主要銘柄の5kg当たり価格は、2024年6月の約2,561円から、2025年6月には約5,072円へとほぼ2倍に跳ね上がった。スーパーの棚から米が消え、購入制限が貼り出される――そんな光景が日常になった。

日本のスーパーに積まれた5kgのお米の袋
5kgの米袋が並ぶ日本のスーパー。一時は価格が約2倍まで高騰し「令和の米騒動」と呼ばれた。

引き金は複合的だ。2023〜2024年の記録的な猛暑と少雨で米の品質が落ち、市場に出せる高品質米が大幅に減った。そこへ南海トラフ地震臨時情報などをきっかけにした買いだめ、流通段階での思惑買い、そしてパンや麺からの需要回帰が重なった。たまった在庫が一気に細り、新米が出回っても価格は下がらなかった。

動いたのは、ここでも政府だ。2025年1月、農林水産省は「大凶作以外でも備蓄米を放出できる」よう運用ルールを見直し、「流通停滞」を新たな放出基準に追加(1年以内に同量を再備蓄する買戻し義務つき)。実際に備蓄米が市場に出た2025年6月以降、小売価格はようやく落ち着きを取り戻した。韓国が「買い上げて絞る」のに対し、日本は「放出して緩める」――方向こそ逆だが、価格を最終的に決めるのは政府の介入という点で、両国はぴたりと重なる。

04 / COMPARE日韓「米の構造」比較――減反と市場隔離

韓国の米事情は、韓国だけを見ていても半分しか分からない。日本と並べて初めて、「これは東アジアの先進国に共通する構造なのだ」と見えてくる。両国はどちらも、戦後の食生活の欧米化とともに米消費が半減し、それでも生産は需要ほど速く減らず、慢性的な過剰に陥った。そして両政府は、生産や流通に手を入れて価格を支える道を選んだ。

日本の茶碗のごはんと韓国の真鍮の器のごはんを並べた静物
日本の茶碗(左)と韓国の真鍮の器(右)。同じ白いごはんでも、器も政策も少しずつ違う。
韓国 日本
消費ピーク 1985年・約128kg 1962年度・約118kg
近年の消費量 2023年・56.4kg 2023年度・51.1kg(過去最低)
価格を支える手段 市場隔離(余剰米の買い上げ) 減反〜転作補助/備蓄米の放出・買戻し
直近の価格局面 2025年産が過去最高値 2024〜25年「令和の米騒動」で約2倍

手段の表情は少しずつ違う。日本は1970年に始めた減反政策(作付け面積を減らして生産を抑える)を2018年に「廃止」したが、主食用米から他作物への転作に補助金を出す仕組みは残り、事実上いまも需給調整は続いている。韓国の市場隔離は、できてしまった余剰米を政府が買い上げて市場から隔離する、いわば「出口」での調整だ。入口で抑える日本、出口で吸い上げる韓国――アプローチは対照的だが、目的は同じ「米農家を守り、価格を安定させる」ことにある。

韓国の米を理解する近道は、日本の米を思い出すことだ。消費の半減、過剰生産、政府の介入、そして価格の高騰――時計の針が20年ずれた、よく似た二つの物語が、いま同時に動いている。

違いも面白い。日本ではコシヒカリに代表される単一銘柄ブランドが早くから定着したのに対し、韓国の「品種で選ぶ」文化はここ十数年で一気に育った。逆に、コンビニのおにぎりや簡便食(HMR)の普及スピード、若い世代の伝統酒・米粉グルメへの熱量は、いまの韓国のほうがむしろ勢いがある。減少という同じ大きな流れの中で、両国は少しずつ違う「米の再発明」を見せてくれているのだ。

05 / CONVENIENCEコンビニ発「おにぎり革命」と簡便食ブーム

家で炊く白米は減った。その米はどこへ行ったのか――答えのひとつがコンビニだ。かつて韓国では「冷めた飯を食べるのは金のない人」という見方が根強く、コンビニにおにぎりはほとんど置かれていなかった。それを覆したのが、品質を磨き上げて主力商品に押し上げた経営者たちで、いまや韓国は立派な「おにぎり大国」になった。

韓国コンビニの三角キンパ(サムガクキンパ)が並ぶ冷蔵棚
三角キンパ(サムガクキンパ)がずらりと並ぶコンビニの棚。簡便食ブームの主役だ。

数字も勢いを裏付ける。大手コンビニCUでは、簡便食(HMR)全体の売上が前年比26.1%増、おにぎり単体でも25.2%増を記録した年があった。背景には単身世帯の増加と、ひとり飯=「ホンパッ」文化の定着がある。家庭の釜から、コンビニの棚と冷凍庫へ。米の消費シーンそのものが移動しているのだ。日本がコンビニおにぎりで先行したこのモデルを、韓国がいま猛烈な勢いで追い越しつつある、と言ってもいい。

食通メモ:三角キンパの見極め

  • 定番はツナマヨ系だが、近年はプルコギ・キムチチャーハン・明太など"惣菜化"が進む。
  • フィルムの開け方が日本の三角おにぎりと同じ「①②③」式。海苔のパリパリ感が命。
  • 「Kフード」関連市場はおよそ5年で約1.5倍に拡大。冷凍ごはん・調理キットも要チェック。

06 / TERROIRブランド米の時代――品種と産地で選ぶ

量から質へ。消費が減るほど、一杯のごはんに対する目は肥えていく。韓国にも、日本の「コシヒカリ」のように単一品種のブランド米が根づきはじめた。食堂の定番から高級銘柄まで、味の個性は驚くほど幅広い。

覚えておきたい主要品種

  • シンドンジン(신동진)/全羅北道産。粒が他品種より約1.3倍大きく、もちもちというより「しっかり・ぷりぷり」した噛みごたえ。食堂で出会う定番。
  • オデ(오대)/江原道産。冷涼な気候で育つ、評価の高い良食味品種。
  • 利川(イチョン)米/韓国で「美味しい米の産地」と言えばまずここ。一粒一粒がふっくらと上品で、コシヒカリと比べても遜色ないと評される"プレミアム級"。

韓国米はジャポニカ種で日本米に近いと思われがちだが、品種や精米等級によって食味は大きく変わる。価格も必ずしも割安ではないため、食通の楽しみ方は「信頼できる銘柄を少量買って、リピートを判断する」のが正解だ。

07 / REINVENTION米の再発明①――クラフト&プレミアムマッコリ

米は「炊く」だけのものではない。いま最も刺激的な"米の再発明"が起きているのが、韓国の伝統酒マッコリの世界だ。かつては「中高年が安く飲む大衆酒」というイメージが強かったが、ここ数年で景色が一変した。

洗練されたデザインのプレミアムマッコリのボトルと白濁したマッコリ
洗練されたボトルデザインのプレミアムマッコリ。米から生まれる新しい嗜好品だ。

全国に点在する大小の醸造所が、仕込みや原料米にこだわったクラフトマッコリを続々と発表。若い起業家の参入でラベルは洗練され、見た目も"映える"ものに。1本数千円する高級志向のプレミアムマッコリも珍しくなく、アルコール度数が10度を超える、風味豊かで重厚な味わいのものも登場している。ワインのように「産地」「米の品種」「醸造所」で選ぶ――そんな飲み方が、若い世代に広がっている。日本酒が辿った地酒・クラフト化の道を、米焼酎ならぬマッコリでなぞっているようにも見えて興味深い。

08 / REINVENTION米の再発明②――米粉グルメとグルテンフリー

もうひとつの主役が米粉(コメコ)だ。韓国の国民食トッポッキの餅は米粉が主原料(餅用で米粉90%という配合も)で、もともと米粉は伝統食を支える素材だった。そこに、世界的なグルテンフリー志向が重なった。

つやのあるトッポッキと淡い色合いの伝統餅(トック)の盛り合わせ
つやめくトッポッキと、淡い色合いの伝統餅(トック)。米粉は新旧をつなぐ素材だ。

注目のフードトレンドには、米粉ベーグル米粉チュロスといった"粉もの代替"が並ぶ。小麦より軽く、もっちりとした独特の食感が支持される理由だ。トッポッキのような伝統食から、カフェのスイーツまで――米粉は韓国の食シーンで「新旧をつなぐ素材」として静かに存在感を増している。余った米を価値ある食材へ変える、という意味では、これも立派な需給調整の"民間版"なのかもしれない。

09 / GUIDE食通のための現地での楽しみ方

韓国「米」体験チェックリスト

  • 食堂で品種を聞く/こだわりの店ならシンドンジンや産地米を使っていることも。釜飯(ソッパッ)の専門店は当たりが多い。
  • スーパーで等級表示を見る/韓国米には等級がある。産地・品種・精米日をチェックすると失敗が少ない。
  • マッコリは醸造所単位で/地域の「生(センマッコリ)」やクラフト銘柄を一本ずつ。ワイン感覚で飲み比べを。
  • コンビニで"いま"を食べる/三角キンパと冷凍ごはんは、韓国の食生活のリアルが詰まった定点観測ポイント。
  • 日本の米と比べてみる/同じジャポニカでも食味・価格・売り方が微妙に違う。帰国後にコシヒカリと炊き比べると、両国の"いま"が舌で分かる。

10 / SUMMARYまとめ――「米離れ」ではなく「米の多様化」

韓国のお米事情を一言でまとめるなら、それは「米離れ」ではなく「米の多様化」だ。家庭で炊く白米は確かに減った。けれど米は、コンビニのおにぎりへ、ブランド米の一杯へ、グラスのマッコリへ、米粉のベーグルへと姿を変え、むしろ食のシーンを広げている。消費量という単一の物差しだけでは、いまの韓国の米は測れない。

そして同じ物語は、20年早く同じ道を歩んだ日本でも進行中だ。「令和の米騒動」を経験した日本と、市場隔離で価格を支える韓国。減るのに高い、という同じパラドックスを抱えながら、両国はそれぞれの流儀で米を守り、つくり替えている。隣り合う二つの米食文化を見比べられる――食通にとって、これほど「食べ歩き甲斐」のある組み合わせもないだろう。

よくある質問(FAQ)

韓国の一人当たり米消費量はどのくらい減ったの?
1985年の128.1kgがピークで、2023年は56.4kg。約40年でおよそ半分以下になりました。2019年に初めて60kgを割っています。
日本と韓国では、どちらが米を食べている?
近年はほぼ並んでいます。2023年(度)で韓国56.4kg、日本51.1kg。日本のほうがやや少なく、ピークも日本(1962年・約118kg)が韓国(1985年・約128kg)より約20年早く訪れました。
消費が減っているのに、なぜ米価は上がっているの?
生産が需要以上に減らず過剰になりがちで、政府が需給を調整するため。韓国は余剰米の「市場隔離(買い上げ)」、日本は減反・転作補助や備蓄米の放出で価格を動かします。2025年産の韓国産地米価は過去最高、日本も2024〜25年の「令和の米騒動」で5kgが約2倍になりました。
「令和の米騒動」って何?
2024〜2025年の日本で起きた米の品薄・価格高騰のこと。猛暑による品質低下、買いだめ、需要回帰などが重なり、主要銘柄の5kgが約2,561円から約5,072円へ。政府が備蓄米を放出して、2025年6月以降に落ち着きました。
韓国の美味しいお米のブランド・産地は?
品種ではシンドンジン(신동진)やオデ(오대)、産地では利川(イチョン)米がプレミアム級として有名です。
韓国旅行で買うべき"米"系のお土産は?
洗練されたデザインのクラフト/プレミアムマッコリ、米粉スイーツ、ブランド米の小袋などが食通に人気です。

おわりに一杯のごはんから見える、変化との向き合い方

韓国の米をめぐる旅は、数字の上では「減少」の物語だ。けれど近づいて見てみると、そこにあるのは衰退ではなく、絶え間ない作り替えの連続だった。家庭の釜からコンビニの棚へ、白いごはんからブランド米の一杯へ、そして米はマッコリのグラスや米粉のベーグルへと姿を変えながら、人々の暮らしの真ん中に居場所を保ち続けている。20年早く同じ坂道をのぼった日本もまた、「令和の米騒動」を経て、自分たちと米との距離をいま測り直している。

食べる量が減るなかでも価値を失わないために必要なのは、量を競うことではなく、質を見極め、選び方を磨いていくこと――。これは食卓だけの話ではない。KEMAが日々のヘアケアで大切にしている秩序・均衡・調和の発想とも、どこかで静かに通じ合っているように思う。多すぎず、少なすぎず、自分にとっての心地よいバランスを見つけていく。次に韓国のごはんを口にするとき、そんな"選ぶ楽しみ"を少しだけ思い出していただけたら嬉しい。